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「ひょっとして……これから社長の所へ出向かれるんですか?」
日頃は作業服で出社することが多い屋久蓑大葉が、今朝は珍しくスーツで来たのはきっとそういうことなのだ。
恐らく岳斗の心が、屋久蓑大葉を見てソワソワと落ち着かないのは日頃と服装が異なっているからに違いない。
何ならさっきからの挙動不審ぶりでちょっぴり乱れていしまっているネクタイを〝僕が直して差し上げたい〟だなんて欲求までふつふつと湧き上がってきて。(何を考えてるんだ、僕は!)と慌てた岳斗は、出来ればいつも通り、作業服に着替えて欲しいとすら思ってしまう。
このところの屋久蓑大葉は、少しずつではあるが感情表現も豊かになってきて、ちょっと前までの【寄らば斬る!】みたいなバリアが消失していた。
こんなことでは、『屋久蓑部長素敵♥』だなんて血迷う女性社員が続出しそうで良くないなと考えて――。
(そ、そう! 羽理ちゃんにライバルが増えてしまうからね!)
と自分に言い聞かせた岳斗である。
(とにかく! 横恋慕出来るかも?とか思わせないで欲しいんですよ、二人には!)
早いところ社長と話をつけて、社内中に「付け入る隙なんてない!」と知らしめてもらわねば、正直岳斗自身も落ち着かないのだ。
「な、何でそれをっ」
だが、当の本人は、分かりやすくスーツなんて着込んできているくせに、岳斗がそう問い掛けてきたことが不思議で堪らないらしい。
勢い込んだ様子でガタッと音を立てて立ち上がった。
「何でって……。大葉さんと土井社長は血縁でしょう? 以前社長が『たいちゃんに見合い話を勧めてる』って、嬉し気に電話で話しながら歩いておられるのをお見掛けしたことがあるんですよ、僕。……社長がおっしゃってた〝たいちゃん〟って、大葉さんのことですよね?」
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