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土井社長と屋久蓑部長の関係は、社内で周知されている情報ではないが、別に箝口令が敷かれているわけでもない。
「大葉さんは社長の甥っ子でしょう?」
数年前たまたまそのことを知った岳斗は、だからと言って本人らが大っぴらに語らないならと、敢えて他言はせずにいたのだ。
(まぁ何かの時、切り札に出来るかな?とか腹黒いことを思ったからなんですけど)
だが今の岳斗には、屋久蓑大葉を陥れる気も、強請る気もさらさらない。
(昨夜力になります、って宣言した気持ちに嘘はないですしね)
愛する者のために感情も露わに、自分を威嚇してきた屋久蓑大葉は、整った顔立ちもあいまって物凄くカッコ良く見えたのだ。
あの姿を見た瞬間、岳斗は雷に打たれたみたいに感情が昂って――。
この男のために尽力したい!と、心酔してしまったのだ。
その想いの本質が何なのか、自分でもよく分かっていないし、そもそも分かってはいけない気がしている岳斗だけれど、とりあえずは屋久蓑大葉の良き理解者、良き補佐役くらいにはなりたいと考えている。
「あ、ああ。その通りだ。……って、やっぱり知ってたんだな、俺と社長のこと」
「はい。数年前……まだ貴方が課長をなさっていた頃にたまたま知る機会があったので」
でも誰にも他言はしていませんよ、と付け加えると、屋久蓑大葉がコクッとうなずいた。
「それは……俺も分かってる」
一言でも誰かに漏らせば、もっと広まっていたっておかしくない話なのだから当然だ。
「何より倍相課長が可愛がっている羽理も知らないみたいだしな」
そこが一番の決め手なのだと言わんばかりの口振りで柔らかく微笑んだ屋久蓑大葉を見て、チクリと胸の奥が痛んだ気のした岳斗だったけれど、そこには敢えて気付かないふりをした。
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