24.スーツを着た理由

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「ああ、羽理(うり)によく(なつ)いてる後輩だろう?」 「ええ。ご存知の通り、僕は荒木(あらき)さんのことが大好きから、その彼からの私的なアプローチを妨害するため、雨衣(あまい)課長に頼んで職権乱用を少々……。ですが五代(ごだい)くんの荒木(あらき)さんへの執着ぶりは雨衣課長もちょっと目に余るところがあったみたいで……割とすんなり協力してくださいました」  確かにアスマモルドラッグでたまたま出会った時、五代(ごだい)は羽理に対してかなり押しが強かったし、財務経理課へ来るたび羽理にアレコレ言い寄っていた可能性は十分にあるな?……と思った大葉(たいよう)だったのだけれど。  財務経理課を取りまとめる総務部長の立場としては、「はいそうですか」と私的な目論見(もくろみ)でのイレギュラーな動きを見逃すわけにはいかない。 「けど……羽理や法忍(ほうにん)さんはやりづらくて敵わんと言っていたぞ?」  大葉(たいよう)だって、羽理に言い寄りそうな要らぬ芽は摘んでおきたい。だが、そこはグッと我慢して社員らが快適に働けるような環境を作るのが大事だと心得ている。  使途不明な領収が混ざっているたび、わざわざ営業課のフロアに降りて、五代(ごだい)を捕まえなくてはいけなかったと相談された旨を話せば、倍相(ばいしょう)が吐息を落として眉根を寄せた。 「あのワンコめ。自分がこっちへ来られなくされたからってそんな姑息な手を……」  ややして忌々(いまいま)し気にぼそりと吐き捨てられた倍相(ばいしょう)の言葉に、大葉(たいよう)は思わず瞳を見開いて。  日頃ニコニコしている彼の予期せぬ言動に、(こら)え切れなくなって笑ってしまった。 「倍相(ばいしょう)課長。キミでもそんな苦々しい顔をすることがあるんだな」  確かにバイタリティ溢れるあのワンコ系営業マンは、少々のことではへこたれないので要注意だ。
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