25.土井恵介という男

2/13

1983人が本棚に入れています
本棚に追加
/440ページ
 倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)は一体何をしに執務室へ来たのだろう?  色々言われた気がするが、実際問題当初の目的は何だったんだ?と、一人部長室に取り残された大葉(たいよう)は、首を傾げずにはいられない。  何となく倍相(ばいしょう)課長を追うみたいな形で前方に手を突き出したまま立ちっぱなしだったことに気が付いて、ドサリとエグゼクティブチェアに身を埋めると、小さく吐息を落としてスーツの内ポケットから携帯電話を取り出した。  社長へ連絡を取るならば、社長室そばの秘書室の内線を鳴らすか、社長専属秘書の遠藤(えんどう)の持つ社用携帯へ掛けるのが通常ルートだ。だが、プライベートなことも話したいと思っている大葉(たいよう)は、結局考えた末に直接社長へと繋がる連絡先をタップした。  少し時間を作って欲しいと伝えた大葉(たいよう)に、土恵(つちけい)商事トップの土井(どい)恵介(けいすけ)は、思うところがあったのだろう。  すぐに上がっておいで?と言ってくれて。社長室へ出向いた大葉(たいよう)は、今まさに母方の伯父でもある土井恵介と対面しているところだ。 *** 「秘書を通さず直接僕の携帯へ掛けてきたってことは……部長としてではなく、一個人の屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)として連絡してきたんだと思ったんでいい?」  人払いをしてもらった社長室で、応接セットに腰掛けて向き合うなり、大葉(たいよう)は、開口一番、恵介伯父から先制パンチを喰らった。  そんな伯父に、大葉(たいよう)は少し考えて、「プライベート半分、仕事半分です」と答える。 「それは……どういう意味かな?」 「順を追って話します。――まずはプライベートな方から」  大葉(たいよう)は、中身も確認しないまま執務室の机の引き出しへ入れっぱなしにしていた白色の封筒を、目の前のローテーブル上へスッと差し出した。  中には台紙に挟まれたL判の見合い写真が入っているはずだ。 「これを差し戻してくるってことは……見合いは必要ないってこと? ――それともチェンジ希望?」 「もちろん必要ないと言うことです。俺には……心に決めた相手がいますので」 「ん? ちょっと待って? この書類を渡した時には、そんなことは一言も言ってなかった気がするんだけど……」
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1983人が本棚に入れています
本棚に追加