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「大変なこと?」
脅された、というよりは助言された……の方が正しかったな?とすぐさま言葉選びを間違えたと思った大葉だったけれど、幸いにして恵介伯父は後半部分を拾ってくれたのでそのまま流すことにした。
「はい。俺にもよく分からなかったんですが、今のままだと羽理……荒木さんが辛い目に遭うとか何とか……。あー、あと……これは別に気にしなくていいと言われたんですけど……倍相課長も困るらしいです」
「ん? 当事者の荒木さんはともかくとして……何で部外者の倍相くんまで困るの?」
「……だから、俺にもさっぱり分からないんですってば」
「うーん。たいちゃんにも分からないんじゃ、社としても対応のしようがないねぇ」
ふっと表情を緩めた土井恵介は、社長の顔から伯父モードに戻ったように大葉のことを愛称で呼んで困ったように微笑んだ。
「けど……そんな曖昧な理由なら……僕としてはまだ公表はして欲しくないかな?」
「え?」
「僕、世襲制に固執してるわけじゃないんだけど……血縁抜きにして考えても、僕の後を継いでもらうのはキミしかいないと思ってるんだよね」
「えっ!? ちょっ、伯父さんっ」
そんなこと今まで言われたことがなかったから、大葉としては物凄く驚いたのだが、恵介伯父にとっては結構前から構想していたことだったらしく、何でもないことのように話を続ける。
「だからね、キミの結婚発表云々は……僕にとっては結構デリケートな問題なの」
彼が言わんとするところが分からなくて、「何でですか?」と思わずつぶやいた大葉に、恵介伯父が小さく吐息を落とした。
「だって考えてもみてよ、たいちゃん。荒木さんはたいちゃんと結婚したら、ゆくゆくは我が社の社長夫人になるってことだよ? 僕には妻も子供もいないからその心配はなかったけど……たいちゃんが結婚相手に選んだ子はよりによってうちの社の優秀な社員だ」
土恵商事は社内恋愛禁止ではなかったはずだ。
何の問題があるというのだろう?と思った大葉に、恵介伯父が「まだ分からない?」と吐息を落とした。
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