25.土井恵介という男

11/13

1983人が本棚に入れています
本棚に追加
/438ページ
(残念と言うべきか幸いと言うべきか……果恵(かえ)に似たのは三人の中で唯一の黒一点……。大葉(たいよう)だけとか……)  思わず見とれてしまうような美貌(びぼう)も、かなり気配り上手で優しいところも。  皮肉なことに男である大葉(たいよう)が一番、恵介の愛する果恵の面影(おもかげ)を色濃く引き継いでいる。  だが、いま目の前にいる姪っ子たちが果恵に似ていたりしたらこんな風に伯父として接するのは難しかったかも知れない。  そう思うと、屋久蓑(やくみの)三姉妹弟(さんきょうだい)の中、唯一男として生まれた大葉(たいよう)が果恵に似ていたのは不幸中の幸いだったのかも知れない。 (さすがに僕も同性相手に変な気は起こらないしね)  お陰様で、を出来ていると思っている。 *** 「そっかそっか。たいちゃんが財務経理課長かぁ~。お祝いしてあげなきゃね。もちろん! っ♪」  ニヒヒ……と(たくら)み顔で笑う柚子(ゆず)に、七味(ななみ)が「あの子、クソ真面目なんだから……あんまりいじめないのよ?」と吐息を落として。  柚子が「あら、ななちゃん。私が可愛い弟にそんな酷いことをするお姉ちゃんに見える?」と抗議した。 「見えるわね」 「残念ながら」  七味(ななみ)恵介(けいすけ)がほぼ同時に柚子の抗議を否定したら、柚子がムムッと愛らしい唇を突き出した。 「伯父さんもななちゃんも覚えてなさいよぉ!?」  そんな柚子の様子に七味(ななみ)と二人で顔を見合わせて笑ったと同時――。  仕切りに挟まれた、恵介からは背面の位置に座っていた男が会計のためか立ち上がって、恵介たちの横を通って行った。  姪っ子二人との会話に夢中で、意識をそちらに持って行かれていた恵介は、その男を斜め後方からしか見られなかったけれど。 (倍相(ばいしょう)くん?)  休日で、スーツこそ着ていなかったけれど。背格好やチラリと一瞬だけ垣間見(かいまみ)えた横顔が、期待の新人としてよく名の上がってくる男――倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)に見えた。  その証拠と言うか――。
/438ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1983人が本棚に入れています
本棚に追加