25.土井恵介という男

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「今の男の子、めっちゃ優しそうな顔のハンサムくんだった!」  自分のすぐ前に座る柚子(ゆず)が嬉しそうに声を弾ませて。 「確かにふわっとした印象の綺麗な子だったけど……貴女、既婚者なんだからもう少し節度を持った発言をなさい」  七味(ななみ)もその男のことをハンサムだと認めている。  基本的に彼女たち自身はもちろん、両親にしてもその弟の大葉(たいよう)にしてもかなり顔面偏差値は高い方なのだ。  その二人が〝いい男〟認定をする人間なんて、そうそういないだろう。  そう考えると、やっぱり今出て行った男は、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)ではないかと思ってしまった恵介だ。  そう考えたと同時。 (もしかして……今の会話、聞かれた?)  大葉(たいよう)のことは〝たいちゃん〟と愛称で呼んでいたけれど、新しく財務課長に就任したばかりの人間だということは口走ったと思う。  それが屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)を指すのは、土恵(つちけい)の人間なら容易に分かることだ。  そんな大葉(たいよう)のことを、会社からは離れた喫茶店という立地と、可愛い姪っ子たちの前と言う気の緩みから思いっきり身内認定するような会話を繰り広げてしまっていた。  もし今のやり取りを聞かれていたら、大葉(たいよう)の立場が危うくなるかも知れない。  一瞬そう懸念(けねん)した恵介だったが、自社の社長がいると分かっていて、いくらプライベートとは言え、すぐ横の通路を歩くのに会釈(えしゃく)もなしに通り過ぎるというのは有り得ないかな?と考え直したのだ。 (倍相(ばいしょう)くんは新人研修の際、どこの部署の上司からの覚えも良かったし……そういうのが出来ない男じゃないはずだよね?)
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