26.持つ者と持たざる者

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 屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)が財務経理課や総務部長室(彼の自室)のある四階フロアに戻ってきたことに気付いた倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)は、大葉(たいよう)へ向けて小さく会釈(えしゃく)をした。  社長へ見合いの断りついで、荒木(あらき)羽理(うり)とのことを報告しに行ってきたんだろう。  どこか難しい顔をしている大葉(たいよう)に、岳斗は(荒木(あらき)さんとのこと、上手く説明できたのかな?)と心配になった。  それに――。 (きっと社長から、昔僕がやったこと、聞いたよね)  何となくだが、大葉(たいよう)の表情を見るとそんな風に感じてしまう。  元々そうなるのは覚悟の上で、社長と大葉(たいよう)が血縁だと随分前から知っていたと告白したのだ。  そのことが許せないから業務で必要な時以外は話しかけるなと、大葉(たいよう)から一線を引かれたなら、それはそれで仕方がないと諦めている。  だがもし機会が与えられるなら、その時の卑怯(ひきょう)さも含めて挽回するチャンスを与えて欲しい。  本当、つい先日までの岳斗は、屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)のことが大嫌いだったから。  隙あらば大葉(たいよう)(おとしい)れてやりたいと思っていた。  容姿に恵まれていて、家族関係も良好。  そのくせその有難みをちっとも分かっていなさそうな大葉(たいよう)の様が、岳斗にはたまらなく腹立たしかったのだ。 (そもそも自分のためにあんなに親身になってくれる姉たち(きょうだい)がいるなんて、ずるいよ……)  自分には望んでも与えられなかった温かい家庭。  それだけならまだしも仕事の面でも才覚があるとか……神様は不公平過ぎる。    そんなのただの勝手な(ねた)(そね)みだと岳斗自身にだって分かっていた。だけど頭と心は別もので、うまくコントロールできなかったのだと素直に謝罪したなら、大葉(たいよう)は許してくれるだろうか。  もちろん、自分だって見た目だけなら大葉(たいよう)にだって負けていない自信はある。 (でもこの顔だって僕はあんまり好きじゃないんだよ)  容姿も家族関係も、自分ではどうしようもないものに、岳斗は幼い頃から翻弄(ほんろう)されてきたのだ。
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