26.持つ者と持たざる者

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 遠縁の子を養子に迎えるしかないと麻由(まゆ)を説き伏せていた矢先、かつて自分の前から不自然な形で姿を消した女――倍相(ばいしょう)真澄(ますみ)に私生児のいることが分かった。  時期的にも自分が囲っていた頃に身ごもった可能性が高かったため、花京院家(かきょういんけ)の力をもって調べ上げた結果、その子供が岳史(たかふみ)の血を引いていると判明したのだ。  名も、あの未練がましい女らしく岳史(じぶん)の名から一字とって岳斗(がくと)と名付けられたその子は、今年(とお)になるらしい。  出来れば小学校へ上がる前に見付け出して教育を施したいところだったが、過ぎたことを(なげ)いても仕方がない。  調査によればかなり聡明な子のようだし、これから磨き上げていけば十分間に合うだろう。  そう判断した岳史(たかふみ)が、動いた結果が今日だったのだ。 *** 『おっしゃられている言葉の意味がわかりません』  目の前の、傲慢(ごうまん)な態度の男が乗っている高級車の中には運転手ともう一人、恐らくは男の秘書か何かをしていると(おぼ)しきスーツ姿の眼鏡男が乗っていた。そのスーツ眼鏡が車から降りてご丁寧に傘をさしながら自分の方へ近付いてくるのを見つめながら、岳斗は無意識に後ずさる。  このままこの場に留まっていたら、二度と母親には会えない気がしたのだ。 『バカな子ではないと調べはついている。言葉の通りなのは分かるだろう? さぁ、大人しく車に乗りなさい』  さっきまでは〝岳斗くん〟と呼び掛けてきていたくせに、岳斗が彼の言葉に難色を示した途端、いきなり威圧的な物言いに転じた車中の男に、岳斗は心が冷え冷えとしていくのを感じた。
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