26.持つ者と持たざる者

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***  大学を卒業したのを機に、当然自社を継ぐものだと思っていたらしい花京院岳史(オトウサン)を裏切って、岳斗(がくと)は独断で土恵(つちけい)商事に入社した。  真澄(ははおや)が亡くなったと知ってからは一度も歯向かう素振りなんて見せなかった岳斗に、花京院(かきょういん)岳史(たかふみ)はすっかり油断していたに違いない。  岳斗が土恵(ここ)の入社試験を受けたことも知らなければ、自分が施した英才教育の賜物(たまもの)で、すんなりと他社の内定を勝ち取ったことにも気付かなかった。  まさか飼い馴らしたはずの我が子が、大企業へ労せずして入れる立場に居ながら、就職活動をしているだなんて思いもしなかったんだろう。  岳斗が花京院(かきょういん)を裏切る(ステージ)として土恵(つちけい)を選んだことに深い意味はない。  あるとすればそう。  すべての連絡がネットを介して行われると言うのが岳斗にとって都合が良かったのだ。  郵送で書類なんて送られてきたら、裏切る前に計画がバレてしまう。  幸いにして認知はされて戸籍の欄にその旨が記載されたものの、義母・麻由(まゆ)からの抵抗が激しく氏名変更の手続きは行われないままだった岳斗(がくと)だ。  花京院家(かきょういんけ)の跡取りとして岳斗を引き取った岳史(たかふみ)としては不服だっただろうが、麻由の親元が自社の大株主だったことに加え、結婚前の不祥事とは言え隠し子発覚と言う負い目もあって、強くは出られなかったらしい。  だが腹黒い男のことだ。優先順位をつけ、岳斗を家で養うことを了承させる代わりにそこは妥協したんだろう。  氏名変更については追々何とかすればいいと考えていたのかも知れない。  とにかく麻由のお陰で、岳斗は土恵(つちけい)商事にも母が自分に与えてくれた名前――倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)のまま入社することが出来たのだった。
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