27.岳斗の告白

6/12

1975人が本棚に入れています
本棚に追加
/435ページ
 面接の際、為人(ひととなり)に難があるのかと身構えていた上層部も、やんわりとした物腰の、非の打ちどころがない青年の登場に、逆に頭をひねったらしい。  当時ただの係長に過ぎなかった大葉(たいよう)は面接官側にはいなかったのだが、プライベート――甥っ子として土井恵介と会ったとき、恵介伯父からそんな話を聞かされた。 『その子ね、たいちゃんの下に付けようと思ってるんだ』  そんな優秀な新人を自分なんかが見ていいのだろうか?と懸念したら、『たいちゃんだから任せられるんだよ』と、社長の顔で太鼓判を捺されて、大葉(たいよう)は身の引き締まる思いがしたのだ。 *** 「俺は……お前にそんなに酷いことをしていたか?」  もしかしたら気負い過ぎて知らず知らずのうちに倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)を追い込んでいたのかも知れない。  当時は大葉(たいよう)も今より随分若かったし、青臭かったはずだ。  ふと眉根を寄せて問い掛けたら、倍相(ばいしょう)は「まさか」とつぶやいた。 「逆に……とてもよくしていただきましたし、いい上司に恵まれたと嬉しく思っていました」  記憶の中の倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)は、むしろあの頃は自分を頼れる上司として慕ってくれていたように思う。  それが大葉(たいよう)の思い違いでなければ、どこかで倍相(ばいしょう)が自分を憎むようになったきっかけがあったはずだ。 「だったら何で……」 「……大葉(たいよう)さんが……社長の身内だと知ったから……です」  そこまで話した倍相(ばいしょう)は、何かを決意したように小さく吐息を落とすと「少し長くなるかもしれないんですが……聞いて頂けますか? 僕の生い立ち……」と大葉(たいよう)の顔を真剣に見つめてきた。  そんな倍相(ばいしょう)に、大葉(たいよう)は「ああ」とうなずくことしか出来なかった。
/435ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1975人が本棚に入れています
本棚に追加