27.岳斗の告白

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「あれば飲みたいときにすぐお茶が飲めて便利だから……ともっともらしい理由を付けて、義母が僕の部屋に設置した電気ケトルや紅茶のセットは、お茶を淹れるためというよりも僕に熱々のお湯を浴びせるためにあったんです」  そんなとんでもない告白をして、倍相(ばいしょう)が淡い笑みを浮かべるから。  大葉(たいよう)は何と言葉を掛けたらいいのか分からなくて、羽理(うり)の家で紅茶を出した時、こいつはどんな気持ちでそれを見ていたんだろう?とか今更なことを思ってしまった。  岳斗の義母は、義理の息子と二人きりになれば『こんなに(いじ)めてあげてるのに……何でいつまでも生きてるの? 早く死んでよ』などと心無い言葉をしょっちゅう彼の耳元へ(ささや)き掛けてきたし、そもそも岳斗の実母・真澄(ますみ)が亡くなったことを『岳史(たかふみ)さんをたぶらかして子供まで作るようなろくでもない女だもの。天罰が下って苦しんで死んだのよ』と、嬉し気に話してきたのも義母だったという。 「ご丁寧に……母が眠る倍相家(ばいしょうけ)の墓の写真まで添えられていたのには正直驚きました」  ――倍相真澄 〇年〇月〇日没 享年三八歳。  わざわざそこの文字が見えるように撮られた写真を眼前に突き付けられた時のショックは忘れられません、と倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)が小さな子供みたいな顔をして泣きそうな表情をするから。  大葉(たいよう)は気が付けばグッと奥歯を噛みしめていた。
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