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にこっと笑う柚子に、「さぁ行きましょう」と背中を押されて、羽理は何度か座ったことのある大葉の愛車――黒いエキュストレイル――の助手席へ乗り込みながら、ズキンと走った股関節の痛みに「はぅ!」と悲鳴を上げる。
そうしながら、ここまで肩を貸して連れて来てくれた柚子を涙に潤んだ目で見上げた。
「……あの、柚子お義姉さま、大葉からの返事は」
「まだよ? ……仕事中だもん。すぐに返信もらえないのは仕方ないわよー」
クスクス笑う柚子に、羽理は「でもそれだと無断借用になるのでは?」と、至極真っ当な問いかけをする。
「そーお? 姉弟だからきっと大丈夫だと思うけど……。どうしても羽理ちゃんが気になるって言うなら、ここから実家までは徒歩十五分圏内だし? 歩いていくことも出来るけど……羽理ちゃん、今はそれ、無理っぽいよね?」
「……はい」
「だったら開き直って車で行くしかないわねー?」
「うー」
それは本当のことなので頭を抱えてうなったら、「……ね、羽理ちゃん。たいちゃんの小さい頃の写真見たいでしょう? 実家に行けばきっと……何枚か持ち帰ることも可能よ?」とか柚子が何とも魅力的な悪魔の提案を投げ掛けてくる。
羽理は抗いがたいその誘惑に、気が付けば「行きます!」と答えていた。
「じゃあ善は急げよ? さぁ行きましょう!」
柚子の辞書には、〝待つ〟という言葉は載っていないらしい。
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