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大葉の家から――つまりは土恵商事からそれほど離れていないはずなのに、周りの家々よりも三倍は広く見える敷地のなかに、屋久蓑家はあった。
「ほら、遠慮せず入って入って」
大葉の幼少期の写真見たさに、つい深く考えもせず柚子についてきた羽理だたけれど、 威風堂々とした数寄屋門を前に、今更のように〝彼氏のご実家〟という重圧にビクビクしていた。
しかも――。
(立派すぎるんですけどぉぉぉ!)
何せ羽理の実家は四階建て市営住宅(エレベーターなし)、三階の一室。
3LDKと家族向け想定の間取りなのは、もともとそこが母の両親の実家で、羽理がまだ幼い頃は祖母も含めた三人家族だったときの名残だ。
ちなみに祖父は、母が大学生の頃に病気で他界したらしい。一緒に住んでいたという祖母も、羽理が保育園へ上がる前には亡くなっていて、ほとんど記憶に残っていない。
生まれたときから父親のいない私生子だった羽理にとって、父方の祖父母なんて最初から居ないも同然だったから、一戸建ての家自体に無縁でここまできた。
柚子から急かされるようにして、痛む身体を叱咤激励しつつヨロヨロと通り抜けた立派な門は、飴色に変化した味わい深いヒノキ材の柱と、格子引き戸が特徴的で、見上げれば三州瓦の屋根まで冠していた。
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