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「あの……農業をやっていらしたというおじい様と、おばあ様は……」
「健在よー。いまでも元気に畑へ出てるわ」
柚子の言葉を聞いて、家族というものに縁の薄い羽理は何となくホッとしたのだ。
「正直な話、経営は土恵って言ったけど……野菜作りに関しては八割がた祖父母のサポート要員って感じかしらね」
羽理は、ふふっと笑う柚子を見て、大葉が現場に出ては土いじりをしたがるのは、こういうお家で育ったからなんだろうなと納得した。
***
「さぁどうぞ」
カバンから取り出した鍵で玄関扉を開錠した柚子を見て、羽理は『おや?』と小首をかしげた。
てっきりインターホンを鳴らして、中から開けてもらうと思っていたからだ。
「お邪魔……しま、す……」
柚子にうながされるまま、まるで生まれたての小鹿みたいな足取りでゆっくりと広い玄関に足を踏み入れる。
(痛い……)
朝よりは大分マシになったけれど、とにかく股関節と腰の辺りが動くたびに悲鳴を上げる。
「もぉ、羽理ちゃんったら! そんなに緊張しなくても大丈夫よ? 身体、辛かったら壁を支えにしてズリズリ歩いていいんだからね?」
羽理は、差し伸べられた柚子の手を握りながら、「でも……初めてのご実家でそんな失礼な態度……」とソワソワしたのだけれど。
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