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『ねぇ、大葉。羽理さんはもうそのことを知ってるのよ? 合理的な貴方のことだから、それならわざわざ告げなくても、とか思っちゃうかも知れないけど……貴方の口からちゃんと話すことが大事なの。その上で、最初から見合い話なんて受ける気がなかったこともきっちり伝える! それが誠意をみせるってことなのよ? 分かった?』
七味に諭されたからではないが、羽理のあの言動からしても、自分からきちんと伝えることは必要なことだと思えた。大葉が素直に「分かった」とうなずいたら、電話先の七味がホッとしたように吐息を落として……。ややして『それから』と続ける。
『――それから、こんなことは付け加えるまでもないと思うけど……何故今日になって貴方が正式にお見合いを断りに行ったのか、その理由もしっかり話してあげなさいね? きっと羽理さんは貴方からの嘘偽りのない真摯な言葉を待ってるはずよ?』
本当にその通りだ。
何もかもを話したわけじゃないのに、七味は全てを俯瞰したみたいに的確なアドバイスをくれる。
本当のところ、恐らくそれをしないことには羽理に「心配しなくていい」と伝えても意味がないはずなのだ。
『頑張りなさい! たいちゃんなら絶対大丈夫! お姉ちゃんが太鼓判捺してあげる』
「ありがとう、七味」
七味からの叱咤激励に、大葉は手にしたスマートフォンをギュッと握りしめた。もしもこれが、今回の原因の一端を担った柚子からの言葉だったなら、こんな風に素直には首肯できなかったかも知れないな? そんなことを思いながら。
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