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柚子は「ごめんね、羽理ちゃん」と苦笑して、アッサリと敗北宣言をしてしまった。
そんなわけで、何故か何の説明もしていないのに「羽理」という名前はおろか、目の前の小娘が息子とお付き合いしていることも知っているといった口振りの、超ご機嫌な果恵に家の中へ引き戻されて――。
気が付けば、羽理は股関節などの痛みすら感じる隙も与えられないぐらいに、義母(予定)からの怒涛の質問攻めに晒されている。
***
「で? 付き合おうってアプローチしたのはやっぱりうちの子から?」
「あ、いえ」
「なぁに? あの子、もしかして羽理ちゃんに告白させたの?」
「あ、いえ、……あの、そうじゃなくて」
「あのね、お母さん、たいちゃんったら『俺と付き合って下さい!』をすっ飛ばしていきなりプロポーズしたみたいなの」
羽理が答えに詰まってオロオロと柚子を見つめたら、冷凍室から見慣れた容器を取り出した柚子が、苦笑まじりに助け舟を出してくれた。
容器の中身は、恐らく大葉が作り置きしているというおかずが入っているんだろう。
「えっ!? あの子、お見合いでもないのにいきなり結婚を申し込んだの!?」
目を真ん丸に見開いた母親の反応が楽しくてたまらないみたいにクスクス笑うと、「ね? どんだけ羽理ちゃんが好きなのって感じでしょう? テンパり過ぎてて逆に可愛いんだけど」と、柚子が羽理に意味深な視線を投げかけてくる。
きっと、期せずして果恵の口から〝お見合い〟の文言が出たことで、大葉がそれを黙っていたことも、羽理が思っているほど悪意あってのことじゃないと思うのよ? とでも言いたいんだろう。そんな柚子からの眼差しに、羽理は心の中で『でも……』と唇をとがらせた。
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