29.裏目

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 岳斗(がくと)が部長室を出て行ってすぐ、机へ置きっぱなしにしていたスマートフォンを手に取った大葉(たいよう)は、姉からの一方的なメッセージを読んで眉根を寄せた。 「車を借りるって……羽理(うり)、動けるのか……?」  そもそも愛犬キュウリのことが書かれていないのも気になるではないか。  大葉(たいよう)は小さく吐息を落とすと、柚子(ゆず)へ電話を掛けた。 *** 「柚子(ゆず)義姉(ねえ)さまは……うちの社長と縁戚(えんせき)なんですか……?」  先ほどからちょいちょい話に登場している〝妹さんを溺愛している伯父さん〟というのは、どうやら自社の社長・土井(どい)恵介(けいすけ)のことらしい。  今更のようにそれに気付かされた羽理(うり)は、アワアワしながらすぐそばの柚子を見詰めた。 「んー? そうだよー? 土恵(つちけい)の社長は母方の伯父さんでぇーす」 「……ということは……大葉(たいよう)も?」 「うん、そうだねー。たいちゃんがよその子じゃない限りはそうなるねぇ♪」  わざとだろうか。いつもより間延びした口調で羽理の言葉を肯定してクスクス笑う柚子に、羽理は情報量が多すぎて処理しきれない。 「……あ、あのっ。ってことは今日大葉(たいよう)が社長のところへ出向くって言ってたのって……」 「多分(おい)っ子として、じゃないかなぁ?」
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