4.会社では別人

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 当然そんな羽理(うり)は、『すみません。昨夜プライベートでちょっとしたハプニングがあって寝不足なんです』なんて言い訳はしない。 「ご心配おかけして申し訳ありません。――大丈夫です」  キリリとして姿勢を正せば、倍相(ばいしょう)課長もそれ以上追及してこなかった――、のだけれど。 「先日屋久蓑(やくみの)部長が出張に行かれた際のこれなんだけど」  不意に屋久蓑(やくみの)部長の名を出されて、スマートフォンの連絡先に昨夜新たに追加されたばかりの〝屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)〟との有り得ないやり取りを思い出してしまった羽理は、思わず「ひゃっ、裸男っ!」と意味深な発言をして、倍相(ばいしょう)課長に「えっ? 裸男?」と問い返される。 「あ、あのっ、なっ、何でもありませんっ。きっ、気のせいですっ」  倍相(ばいしょう)課長から何が気のせいなの?と再度問い掛けられたらどうしようと思っていた矢先。 「――倍相(ばいしょう)くん、話し中のところちょっと悪いんだけど、出張のこと(そのこと)について、彼女に直接説明したいことがあるんだ。――いいかな?」  すぐ横からいきなり声を掛けられた。  その、昨夜さんざん聞かされたよく通る低めな声音に、羽理は声の主を恐る恐る見上げて。 「やっ、屋久蓑(やくみの)部長っ!」  今まで会社では全く接点のなかった上司様の突然の降臨に、大きく瞳を見開いた。 *** 「はぁー。分からねぇわけだわ」 「え?」 「いや、お前、化けすぎだろ!」  同じフロア内。  最奥にある部長室へ入って扉を閉ざすなり、屋久蓑(やくみの)部長に「詐欺だ!」と盛大に溜め息をつかれた羽理(うり)は、「いきなり失礼な人ですね!?」と反論せずにはいられない。
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