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当然そんな羽理は、『すみません。昨夜プライベートでちょっとしたハプニングがあって寝不足なんです』なんて言い訳はしない。
「ご心配おかけして申し訳ありません。――大丈夫です」
キリリとして姿勢を正せば、倍相課長もそれ以上追及してこなかった――、のだけれど。
「先日屋久蓑部長が出張に行かれた際のこれなんだけど」
不意に屋久蓑部長の名を出されて、スマートフォンの連絡先に昨夜新たに追加されたばかりの〝屋久蓑大葉〟との有り得ないやり取りを思い出してしまった羽理は、思わず「ひゃっ、裸男っ!」と意味深な発言をして、倍相課長に「えっ? 裸男?」と問い返される。
「あ、あのっ、なっ、何でもありませんっ。きっ、気のせいですっ」
倍相課長から何が気のせいなの?と再度問い掛けられたらどうしようと思っていた矢先。
「――倍相くん、話し中のところちょっと悪いんだけど、出張のことについて、彼女に直接説明したいことがあるんだ。――いいかな?」
すぐ横からいきなり声を掛けられた。
その、昨夜さんざん聞かされたよく通る低めな声音に、羽理は声の主を恐る恐る見上げて。
「やっ、屋久蓑部長っ!」
今まで会社では全く接点のなかった上司様の突然の降臨に、大きく瞳を見開いた。
***
「はぁー。分からねぇわけだわ」
「え?」
「いや、お前、化けすぎだろ!」
同じフロア内。
最奥にある部長室へ入って扉を閉ざすなり、屋久蓑部長に「詐欺だ!」と盛大に溜め息をつかれた羽理は、「いきなり失礼な人ですね!?」と反論せずにはいられない。
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