30.心配しなくていいと伝えたいだけなのに

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『……大葉(たいよう)のバカ! 嘘つき! 私を泣かせたのは貴方だもん! 大嫌い!』  電話を切られる間際(まぎわ)羽理(うり)に投げつけられた言葉を思い出して「はぁーっ」と盛大に溜め息を落とすと、大葉(たいよう)は母や姉とともに実家にいるはずの羽理に思いをはせる。 (おふくろが混ざってるってのが……イヤな予感しかしねぇ)  七味(ななみ)(さと)されて自分が悪いというのは重々自覚した大葉(たいよう)だが、実際問題〝魔王城(まおうじょう)〟に(おもむ)く非力な村人Aくらいの不安な気持ちだ。 「マジ勇者になりてぇ……」  なんて情けないつぶやきを落とした大葉(たいよう)を、愛犬キュウリがキョトンとした様子で振り返った。 「あー、ウリちゃん、パパのことは気にしないでくだちゃい」  その視線に、大葉(たいよう)は眉根を寄せて愛犬キュウリが(たたず)んだすぐそばにしゃがみ込むと、手のひらをアスファルトに押し当てて地べたの温度チェックをした。  夏の散歩中には、ちょいちょいそんなことをして、キュウリの足の裏(にくきゅう)が火傷したりしないよう気遣っているのだが。 「ちと熱いか」  そう思った大葉(たいよう)は、キュウリをそっと抱き上げた。  大葉(たいよう)より体温の高いキュウリは、抱くと湯たんぽ張りに温かくて、スーツを着ているから余計にじっとりと汗ばんでくる。  大葉(たいよう)を気遣うように、キュウリにぺろぺろと手の甲を舐められたけれど、その舌にしたって燃えるように熱い。 (早く実家にたどり着かねぇとなぁ)  母親と姉に囲まれるのは嫌だけど、キュウリを早く涼ませてやりたいという気持ちもある、何ともジレンマな大葉(たいよう)だった。
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