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愛犬キュウリを抱っこしたまま実家に着いて、数寄屋門をくぐってすぐ。しゃがみ込んで地べたに触れた大葉は、触れないほど熱くない温度に、やはり土はアスファルトとは違うな? と思いながらキュウリを地面に下ろした。
ついでに、きっと身に着けているだけで暑いだろうフリルと羽根のついたハーネスを、キュウリの身体から外してやる。
「暑かったでちゅね」
自分をじっと見上げてくるキュウリの頭をスリスリと撫でて瞳を細めたと同時。キュウリが大葉の背後――いま通り抜けてきたばかりの門の方へ向けてワンワン!と甲高い声で吠えながら走って行ってしまう。
「あ、ちょっと……ウリちゃん!」
愛娘の、突然の番犬モードに大葉が慌てて立ち上がって背後を振り返った途端、「たいくん!」という声がして、いきなり小柄な人物に真正面から抱き付かれた。
「……何でお見合い、断っちゃったの?」
今にも泣きそうな顔で「私のこと、嫌い?」と付け加えられて、潤んだアーモンドアイで見上げられた大葉は、思わず怯まずにはいられない。
「あ、んず……? ……な、んで……お前が俺の見合いのこと……」
まるで縋り付くみたいに二の腕へ力を込めてくる相手に、戸惑いの余りオロオロしてしまった大葉を見上げて、キュウリはご主人様の一大事だと思ったんだろう。
二人の周りをぐるぐる走り回りながら〝杏子〟と呼ばれた女性を牽制するように吠えまくって――。
小型犬特有の耳にキン!とくる吠え声が、静かな敷地内に響き渡った。
きっと、その吠え声が聴こえたんだろう。
向きを変えたことで背後になってしまった玄関扉が開く音がした。
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