30.心配しなくていいと伝えたいだけなのに

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「私、小さい頃からずっとずっとたいくんが好きなの! 彼以外とは結婚したくない!」  そんなワガママを言ったところで自分は一介のサラリーマンの娘。  対して初恋相手のたいくん――こと屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)は大きなお屋敷の跡取り息子で、母方は農業を営む大地主。父方も地元では名の知れた名士のお家柄というサラブレッド。加えて母方の伯父さまが経営しているという商社は、今や全国展開にまで成長した大きな会社ときている。  一般家庭育ちで父子家庭の杏子(あんず)が、そんな大葉(たいよう)のお嫁さん候補になれる可能性はゼロに近いはずだった。  そもそも自分が大葉(たいよう)と接点があったのは、杏子が二歳、大葉(たいよう)が八歳の頃からのほんの数年間と言う束の間だけ。  大葉(たいよう)の母方の伯父――土井恵介の自宅近所に住んでいたよしみ。母親を亡くしたばかりで父子家庭になってしまった杏子を、独身のくせに子煩悩だった恵介が自分の(めい)(おい)と一緒に面倒を見てくれていたことが接点に過ぎない。  当時、屋久蓑家(やくみのけ)のお姉さん二人には物凄く可愛がられた記憶がある。  杏子ではとても手に入れられないようなハイブランドの可愛いお洋服を沢山着せてもらえたし、王子様みたいにかっこいい大葉(たいよう)と並べられて、お姫様扱いをしてもらえたのが凄く凄く嬉しかった。  杏子が、母親が亡くなっても明るく笑っていられる女の子でいられたのはきっと、屋久蓑(やくみの)三姉妹弟(さんきょうだい)のおかげなのだ。  そんなお姉さんたち二人は、どちらも早くによそのお宅へ(とつ)がれたと風の噂に聞いた。  となると、やはり大葉(たいよう)屋久蓑家(やくみのけ)を継ぐんだろう。  きっと、杏子なんて相手にされないに違いない。  そう思っていたのだけれど――。
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