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「……っ!」
そんなことを思いながら、父親に差し出されたL判サイズより一回りくらい大きい二つ折り台紙を半ばしぶしぶ開いてみた杏子は、思わず言葉を失ったのだ。
(やだっ。何これ……。たいくん、こんなハンサムになってるだなんて、私、聞いてない!)
思い出の中の大葉も確かに物凄く浮世離れした美形で、幼心に『こんな人と結婚したい!』と思ったのを覚えている。
実際、『アン、おっきくなったらたいくんのおヨメしゃになる!』と宣言して、彼のお姉さんたちからワイワイと騒ぎ立てられたのは三歳か、四歳のときだったか。
お姉さま方二人によって、お姫様に仕立てられた杏子の横へ王子様に見立てられた大葉が据えられたのは、その言葉の影響が大きかった。
結局〝たいくん〟は一度も杏子の求愛にうなずいてくれたことはなかったのだけれど――。
考えてみれば、小学校にも上がっていないような小さな女の子から好き好き言われた大葉は、さぞや困ったことだろう。
幼い頃の六歳差は、大人になってからのそれより遥かに大きい。
でも、今ならもしかしたら――。
土井さんが自分との見合いを二つ返事で受け入れてくれたというのなら、きっとたいくんは今、フリーなのだ。
杏子は大葉の写真を見て、子供の頃のイメージを崩すことなく……いや、むしろ何億倍もカッコよくて優しそうなイケメンへと成長した〝初恋の君〟に、一瞬にしてもう一度心奪われたのだった。
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