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土井恵介に、杏子の父、美住大地が釣書を渡して二ヶ月余りが過ぎた。
その間、杏子はいつ先方から見合いの日取りなどが打診されてくるかとソワソワして過ごした。
断られるならばきっと、書類を渡してすぐにそういう話があるはずだろうし、それがないということは、大葉が忙しくてなかなか日取りの調整がつかないということなんだろう。
何でも父親の話によると、たいくん――こと屋久蓑大葉は、伯父である土井恵介が経営する会社で、〝ナニヤラ部長様〟をやっているということだったから、平社員と違って忙しいに違いない。
「ねぇ、美住さん、聞いてる?」
勤め先で、同僚らとランチしているときにそんなことを言われる頻度が増して、気持ちがそぞろでいけない、と思うことが多くなってきた頃――。
仕事後、カバンに仕舞い込んでいた携帯電話を取り出してみると、父からの着信に混ざって見知らぬ番号からの着信履歴と、『美住杏子さんのお電話ですか? 土井恵介です。またこちらからご連絡致します』という留守番電話が残っていた。
(やっとたいくんとのお見合いの日取りについての連絡がきたんだ!)
待ちに待った土井恵介からの連絡に、杏子は父へ折り返すよりも先にメッセージを残してくれていた土井恵介の方へ電話を掛けようと心に決める。録音にはあちらから折り返すとあったけれど、待ちきれなかったのだ。
とはいえ、相手は大会社の社長様。忙しくて出てくれないかも? とソワソワしたのだけれど、コール数回で無事に繋がってホッとする。
『――もしもし、アンちゃん? ごめんね、折り返してくれたんだね』
電話口から聴こえてきた柔らかな土井恵介の声に、杏子は緊張に震えながらも「はい、あ、杏子です。そのっ、お電話を頂いていたので、待ちきれずに掛け直してしまいました。……えっと、今、お時間大丈夫ですか?」と問い掛けた。
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