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外から小型犬特有のけたたましい吠え声が聞こえてきて、「何ごとかしらね?」と窓の外を見た果恵が、「ここからじゃよく見えないわね」と小首を傾げた。
それを聞いた羽理は、『あの声はきっとキュウリちゃんだ』と思って。大葉と顔を合わせるのが何だか気まずくて、どうにかしてこの場を立ち去りたいとソワソワしたのだけれど、逃げ出すより先に柚子にギュッと手を握られた。
「きっとたいちゃんが来たのよ。羽理ちゃん、逃げたい気持ちも分かるけど……ちゃんと話さなきゃダメ」
手を掴まれたまま柚子からそんなことを言われた羽理は、助けを求めるみたいに果恵を見つめた。でも、期待とは裏腹。果恵からも「大丈夫よ。私たちがついてるから! ちゃんと大葉と向き合いましょう?」と言われて、空いていたもう一方の手を取られてしまう。
そうしてそのまま二人に挟まれて、半ば連行されるみたいに玄関外へと連れ出された羽理は、数奇屋門のところに、大葉らしき人影が背中を向けて佇んでいるのを見た。
西の空へ傾いた夕陽を受け、こちらからは逆光になっていてシルエットしか見えないけれど、その周りをダックスと思しき犬の影がクルクル回りながら吠えているから間違いないだろう。
いつもはおとなしく大葉をじっと見上げるのが常のキュウリちゃんが、騒がしく吠えているのは何故だろう?
それも気になって。
「たい、……よう」
会いたくないと思っていたくせに大葉の姿を見たら、ほとんど無意識。
気がつけば、羽理は柚子と果恵の手をすり抜けるように離れて、大葉の方へ歩き出していた。
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