30.心配しなくていいと伝えたいだけなのに

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 そうしながら、目の前の女性を気遣うように言葉を選んで話している様子の大葉(たいよう)に、羽理(うり)は胸が張り裂けそうにチクチクと痛んだ。 (ねぇ大葉(たいよう)。最初からお見合い相手が彼女だって知っていたらどうしていたの? ――もしかして、断らなかった……?)  その忖度(そんたく)大葉(たいよう)の優しさなのだと理解は出来るけれど、そんな不安に(さいな)まれるあまり、羽理はいっそのこと『放せ』と冷たく言い放って、彼女のことを突き飛ばして欲しいと思ってしまった。 (ヤダ。……私、すごくイヤな女になってる……)  自分にするみたいに、大葉(たいよう)が彼女の背中へ腕を回していなかったことは一目瞭然で……。それだけでも自分の方が〝杏子(あんず)〟さんとやらより大葉(たいよう)から優遇されているのは明確なのに。それでもこんなに不安になって、杏子さんが大葉(たいよう)から傷つけられるのを望んでしまっている。  ――こんなの、人として最低じゃない!  ズキズキと痛みを訴えてくる胸のところをギュウッと掴みながら、羽理は大葉(たいよう)起因のこの胸の痛みや動悸のことを、心臓の病気だと思っていた頃を懐かしく思う。  あの頃ならばきっと、こんなシーンを見せられてもここまで辛くならなかったはずだ。 「もう、イヤ……」  ポロリと涙をこぼしてそうつぶやいたと同時。  大葉(たいよう)が「けどごめん。伯父さんが期待させるようなこと言って悪かったとは思うけど……俺にはもう心に決めた女性(ひと)がいるんだ。……だから、キミとはどうこうなれない」と杏子(あんず)をハッキリと拒絶して……。キュウリが少し離れたところへ立ち尽くしたままの羽理に気付いて、尻尾を振りながら駆け寄ってきた。
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