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今の今まで足元でキャンキャン吠えていた愛犬キュウリが、ふと何かに気付いたようにぴたりと吠えるのをやめて駆け出したことに、大葉は思わず意識をそちらに囚われて。
見るとはなしにキュウリの動作を追って背後に視線を向けて、三メートルばかり離れたところに羽理が立っているのに気が付いた。
「羽理……!」
大葉より一足早く羽理の足元へたどり着いたキュウリが、嬉しそうに彼女の足元で尻尾をブンブン振りながら、撫でられ待ちをするみたいにお座りをして羽理を見上げている。
杏子への塩対応が嘘みたいに羽理へ甘える愛娘の態度に、大葉はキュウリも自分のパートナーとして羽理を認めてくれているような気がして何だか嬉しくなった。
思い返してみれば、キュウリは初めましての時から羽理には吠え付かなかったな? と、今更のように気付かされる。
実家へ来るまでの道すがら、散々アレコレ思い悩んでいたくせに、羽理と彼女に懐く愛犬の姿を見た途端全てどうでもよくなって……。ただただ羽理を腕の中へ抱き締めたい! と思った。
大葉がその衝動に突き動かされるみたいに一歩足を踏み出したら、「ヤダ! たいくん、行かないで!」と杏子に右腕全体を抱き締めるみたいに掴まれて――。
それを見た羽理が、居た堪れないみたいに眉根を寄せて、フイッと大葉から視線を逸らした。
そればかりか、クルリと向きを変えて大葉から逃げたいみたいに歩き始めてしまうから。
「――っ!」
大葉は羽理以外のことなんてどうでもいいと思ってしまった。
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