30.心配しなくていいと伝えたいだけなのに

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***  今の今まで足元でキャンキャン吠えていた愛犬キュウリが、ふと何かに気付いたようにぴたりと吠えるのをやめて駆け出したことに、大葉(たいよう)は思わず意識をそちらに囚われて。  見るとはなしにキュウリの動作を追って背後に視線を向けて、三メートルばかり離れたところに羽理(うり)が立っているのに気が付いた。 「羽理……!」  大葉(たいよう)より一足早く羽理の足元へたどり着いたキュウリが、嬉しそうに彼女の足元で尻尾をブンブン振りながら、撫でられ待ちをするみたいにお座りをして羽理を見上げている。  杏子(あんず)への塩対応が嘘みたいに羽理へ甘える愛娘の態度に、大葉(たいよう)はキュウリも自分のパートナーとして羽理を認めてくれているような気がして何だか嬉しくなった。  思い返してみれば、キュウリは初めましての時から羽理には吠え付かなかったな? と、今更のように気付かされる。  実家(ここ)へ来るまでの道すがら、散々アレコレ思い悩んでいたくせに、羽理と彼女に懐く愛犬の姿を見た途端全てどうでもよくなって……。ただただ羽理を腕の中へ抱き締めたい! と思った。  大葉(たいよう)がその衝動に突き動かされるみたいに一歩足を踏み出したら、「ヤダ! たいくん、行かないで!」と杏子に右腕全体を抱き締めるみたいに掴まれて――。  それを見た羽理が、居た堪れないみたいに眉根を寄せて、フイッと大葉(たいよう)から視線を逸らした。  そればかりか、クルリと向きを変えて大葉(たいよう)から逃げたいみたいに歩き始めてしまうから。 「――っ!」  大葉(たいよう)は羽理以外のことなんてどうでもいいと思ってしまった。 --------------------- 【お知らせ】 流行りに乗って、スターギフトを設定してみました。 詳細はエッセイ『気ままに創作語り』 https://estar.jp/novels/26236867/viewer?page=55 にて。 ※一応ギフトのお礼は書き下ろしの短編をご用意させていただいています。 ギフトをくださった方にはメールが届きまして、『誰にも見せたくない』という短いお話がお読み頂けるようになります。 ---------------------
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