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「羽理っ、頼むから止まってくれ! 弁解くらいさせろ!」
たまらず声をかけた途端、大葉の焦る気持ちを察したみたいに、羽理の背後を付き従うようにチョロチョロしていたキュウリが、不意に羽理の前へ飛び出した。
「ひゃっ」
いきなりキュウリに行く手を塞がれて驚いた羽理が、小さく悲鳴を上げて立ち止まって。
そのお陰で大葉は羽理に追いつくことが出来た。
「羽理。やっと……捕まえた」
背後から愛しい彼女の名を呼んで、ギュッと腕の中に囲い込むように閉じ込めれば、羽理が逃げたいみたいに身じろいだ。
「あ、あのっ、けど……私、……私っ」
そうしながら何を言っていいのか分からないみたいに言葉に詰まる羽理を背後から腕の中へ抱き締めたまま、大葉は「不安にさせてごめん」と素直に謝った。
キュウリがつぶらな瞳でそんな自分達を見上げているのがちょっぴり恥ずかしく思えてしまった大葉だけど、そんな理由でこの先の言葉を飲み込んでしまうのはダメだと懸命に自分を鼓舞する。
「さっきの俺の言葉、聞いてたか? 俺は……羽理にしか興味ない。見合い相手だったらしい彼女は確かに幼い頃を知ってる子だけど、ホントにそれだけなんだ。今更言い寄られた所で何とも思わないし、好みのタイプだって言われてもピンとこねぇ」
そこまで言って、大葉はずっと黙ったままの羽理をくるりと自分の方へ向き直させると、両腕に手を添えるように彼女を捕まえたまま、じっと羽理の顔を見下ろした。
涙で泣き濡れたアーモンドアイは、大葉が如何に羽理のことを傷付けたのかを如実に物語っているようで、胸がチクチクと痛む。
でもそれと同じくらい、愛する羽理の心を、自分がこんなにも揺さぶることが出来たんだと思うと嬉しくもあって。
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