30.心配しなくていいと伝えたいだけなのに

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 サラリと嬉しかった気持ちを言ってしまおうと思ったのに、猫みたいに(まぁる)くて綺麗な羽理(うり)の目で見上げられたら、言葉がつっかえてしまった。そのせいで昨夜のことをやたら意識してしまった大葉(たいよう)は、見下ろした羽理の髪の毛の隙間からちらりと見えた首筋の鬱血痕(キスマーク)に、〝面映(おもはゆ)ボルテージ〟が振り切れてしまう。 「その……、あれだ。お前、昨夜俺に、その、……あー、だっ、だ、……かれてくれただろ?」 「だ、……かれて……?」  大葉(たいよう)の言葉を何の気なしにオウム返ししてから、羽理はしどろもどろに告げられたそれが、『抱かれてくれた』だと認識したらしい。ぶわっと耳まで真っ赤にして、何故か背後にいる柚子(ゆず)たちを気にする素振りをする。  その不可解な行動に大葉(たいよう)がキョトンとしたら、 「あの、私の不調の原因……柚子お姉さま……気付いて、ました……」  とか言われて、一瞬遅れて羽理の言葉を理解した大葉(たいよう)は「まじか……」と盛大に溜め息を落とした。  あとで柚子から色々言われるのは必至だと諦めつつも、大葉(たいよう)はもう一人の姉――七味(ななみ)から言われたことを思い出す。 「まぁ、それはあれとして……その、……と、とにかく! お前が俺に全部(ゆだ)ねてくれたから……。だから俺もちゃんとけじめ付けなきゃいけないなって思ったんだ」  羽理に結婚を申し込んで承諾(しょうだく)してもらって……そのまま彼女の〝初めて〟までもらってしまったのだ。伯父から持ち掛けられていた見合い話を宙ぶらりんにしておくのは、男として余りにも不誠実ではないか。
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