31.失恋のその先

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 幼い頃の初恋は、憧れのまま。それが恋なのだと認識しないままに終わっていた。  環境が変わって相手の姿を見ないうちに何となく、その男の子の存在自体が自分の中から消失していくような、そんなちっぽけな好意の裏返しみたいな淡い恋心だったのだ。  ちょうだい? とねだれば、美味しいものを分けてくれるから好き。  好きって言ってまとわりついても、あからさまに跳ね除けたりしないから嬉しい!  お姫様に変身させてもらった自分の横にいてくれた唯一の男の子。綺麗な顔立ちの彼のそばにいたら、自分はずっとお姫様のままでいられる気がしたから。だから懸命に好きだと言ってしがみついた。  そんな幼稚な気持ち、初恋と呼ぶのも烏滸(おこ)がましいかも知れない。  でも――。  ついさっき終わりを告げたそれは、こんなにも杏子(あんず)の心を深くえぐって大きな傷跡を残している。  だからきっと、これはれっきとした〝好き〟で、幼い頃の〝アレ〟とは違うものだ。   「アンちゃん」  いつの間に、そばまで来ていたんだろう?  気遣わし気に名前を呼ばれて、杏子は呆然自失のまま声の主を瞳に映した。 「……柚子(ゆず)……お姉……ちゃん?」  ぼんやりとしたまま尋ねれば、記憶の中よりうんと背が高くなって、グラマーになった柚子お姉ちゃんが、「うん、柚子だよ」とうなずきながらギュッと抱き締めてくれた。
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