31.失恋のその先

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大葉(たいよう)のお見合い相手、杏子(あんず)ちゃんだったの?」  柚子(ゆず)に抱きしめられたままでいたら、横合いからたいくんによく似た顔立ちをした女性――屋久蓑(やくみの)果恵(かえ)――が声を掛けてきて、杏子は『ああ、私、この人の息子さんにフラれたんだ』とぼんやりとした頭で理解した。途端ポロリとこぼれ落ちた涙が(せき)を切って、止められなくなってしまう。 「ごめんなさいね、杏子ちゃん。きっとうちのバカな兄が……杏子ちゃんが期待しちゃうようなことを言ったのね?」  大葉(たいよう)との会話を聞いていたわけではないだろうに、果恵がどこか核心めいた声音でつぶやいて……。「懲らしめてやらなきゃ」と吐息を落とした。  大葉(たいよう)の身内であるはずの二人からそんな風に気遣われたら、杏子はますますどうしていいか分からなくなる。  何て言うかすごくすごく居た堪れない。  杏子は柚子の腕を振り(ほど)いてぺこりと頭を下げると、一目散に駆け出した。  背後から追いすがるように「アンちゃん!」とか「杏子ちゃん!」とか、柚子と果恵の声が聴こえてきたけれど、杏子は振り返ることが出来なかった。 ***
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