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「大葉のお見合い相手、杏子ちゃんだったの?」
柚子に抱きしめられたままでいたら、横合いからたいくんによく似た顔立ちをした女性――屋久蓑果恵――が声を掛けてきて、杏子は『ああ、私、この人の息子さんにフラれたんだ』とぼんやりとした頭で理解した。途端ポロリとこぼれ落ちた涙が堰を切って、止められなくなってしまう。
「ごめんなさいね、杏子ちゃん。きっとうちのバカな兄が……杏子ちゃんが期待しちゃうようなことを言ったのね?」
大葉との会話を聞いていたわけではないだろうに、果恵がどこか核心めいた声音でつぶやいて……。「懲らしめてやらなきゃ」と吐息を落とした。
大葉の身内であるはずの二人からそんな風に気遣われたら、杏子はますますどうしていいか分からなくなる。
何て言うかすごくすごく居た堪れない。
杏子は柚子の腕を振り解いてぺこりと頭を下げると、一目散に駆け出した。
背後から追いすがるように「アンちゃん!」とか「杏子ちゃん!」とか、柚子と果恵の声が聴こえてきたけれど、杏子は振り返ることが出来なかった。
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