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「その時はまた、課長さんの視点で色々相談に乗って下さいね? 今日も凄くためになるお話ばかりで私、目からうろこでした」
ニコッと笑いながらそう告げてきた杏子は、残念ながら岳斗のことを異性として認識してくれているようには思えなかった。
そこがちょっぴり不満な岳斗だったけれど、思えば屋久蓑大葉を好きになる女性は、きっとみんなこんな感じ。向けられる好意に疎くて手強いに違いない。
(荒木さんにしてもそうだったし……きっと杏子ちゃんも相当鈍感な子だ……)
異性から個人的に食事やお茶に誘われて、下心を感じない子は珍しいと思う。
現に、岳斗が食事に誘えば、大抵の女性は岳斗がその先を望んでいることを察知してすり寄ってきたものだ。
だからこそ、羽理の時と同じ轍を踏むつもりはさらさらない岳斗である。
(今度こそまどろっこしい真似はしないで、直球で勝負しよう)
杏子と別れてすぐ、大葉に意味深なメッセージを送ったのだって、実はライバル(?)に対する〝牽制〟のつもりだった。
何せ、杏子と荒木羽理は家が近過ぎる。もしものことが起こってからでは遅いのだ。
――貴方が手放した女の子、僕が頂きますので、もう手出しはしないでくださいね?
腹黒っぽさを発動させて、大葉にそんなことをしてしまったのは、自分に自信が持てないからに他ならない。
大葉が荒木羽理以外の女性に見向きもしないことは承知の上で、それでも下手なことをして杏子ちゃんの心をかき乱すような真似だけはしないで欲しいと、岳斗は心の底から希ってしまったのだ。
さて、牽制を掛けた屋久蓑大葉から岳斗に電話が掛かってきたのは、杏子をアパートの部屋前まで送り届けた後。――岳斗が、「さて、帰るか」と少し離れたコインパーキングに駐車してあった車に乗り込んだときのことだった。
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