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いついかなる時もブラック派の大葉に対して、羽理はコーヒーフレーバーミルクと呼んでも過言ではないシロモノの、甘いやつを好む。でもごくたまに。今回みたいに無糖を求める時があることも知っているから、大葉はその都度彼女の意向を確認するようにしているのだ。
大葉は、自分の中にこんな感じで少しずつ、荒木羽理という女性に関する〝豆知識〟が増えていくのがほんのりと嬉しかったりする。
きっとそういうものが積み重なって、羽理との他愛のない日常に彩りと実感を添えていくと思えるからだ。
***
「――で、倍相課長は何ておっしゃったんですか?」
大葉お手製のコーヒー牛乳を一口飲むなり、羽理はすぐそばの大葉をじっと見つめた。
無糖のコーヒー牛乳だけど、牛乳のおかげかほんのりと甘みを感じらるよく冷えた液体が、喉を滑り落ちていく。
自分の横には大葉の愛犬キュウリちゃんもいて、まるで『早く話してスッキリしちゃいなさいな?』と言わんばかりの表情で飼い主を見上げていた。
羽理は時折、そんなキュウリちゃんが自分の味方に思えて仕方がない。
大葉はまだ思考がまとまっていないのか、自分用のアイスコーヒーを一気に半分ばかりガブ飲みすると、ほぅっと吐息を落としてちょっとだけ思案深げに瞳を揺らせた。
「――何かたまたまらしいんだけどな。岳斗のやつ、俺たちと別れた直後の……落ち込んだ様子の杏子に出会ったそうなんだ」
「え? 倍相課長がたまたま杏子さんに、です、か……?」
「そう、岳斗がたまたま杏子に」
羽理に応えてくれながら、大葉はどこか自分に言い聞かせているようにも見えて――。
(ひょっとして大葉、他にも何か隠してる?)
女の勘とでも言おうか。そんな風に思った羽理だったのだけれど、実はビンゴだった。
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