32.嫌だから、嫌なんです!

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(って言うか……出会ってすぐに気になる子の家突き止めてるって……すごくねぇか、倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)!)  自分は羽理(うり)と特殊な出会い方をしてしまったからともかくとして、それがなければ羽理の家なんて未だに知らないままな可能性もあるくらいだと自認している大葉(たいよう)は、好きな相手から個人的な情報を聞き出すのが物凄く下手なのだ。  だからこそ羽理が飲むコーヒー牛乳に砂糖が入る時と入らない時があるだなんていう些細なことを知っているというだけで、小さな幸せを見出せるわけなのだが……。  居間猫(いまねこ)神社とは全く別方向に住んでいる岳斗が、その辺りにいたことも不思議に思った大葉(たいよう)だったが、そこは『大葉(たいよう)さんに釘を刺そうと思って荒木(あらき)さんの家に行こうと彼女に連絡したら、電話が通じなかったんです。また何かあったのかと心配になって荒木さんの家まで行くことにしたからですよ』と説明されてひとまずは納得した。  今日羽理は体調不良という名目で仕事を休んだのだ。岳斗が言ったように自宅療養していると思うのが普通だろう。  そうして羽理のことを溺愛しているのがバレバレな自分が、終業後いそいそと彼女の見舞いに行くのは当然の流れだと岳斗に認識されていたのにもうなずける。  羽理に電話が通じなかったのは自分のせいでもあるわけで、大葉(たいよう)はそれ以上何も言えなかったのだけれど。  結局岳斗は岳斗で、『荒木さんの家へ向かう道すがら、杏子(あんず)ちゃんと出会ってしまって……。何かもうそれどころではなくなってしまったんです』という状況になってしまったらしい。
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