32.嫌だから、嫌なんです!

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岳斗(がくと)が言うにはお前の家と杏子(あんず)の家、すっげぇ近いらしいんだ。――それこそ出会っちまっても不思議じゃねぇくらい……」  言って、岳斗からこれ以上杏子の心をかき乱さないためにも羽理(うり)との同棲を勧められたことを付け加えたら、羽理がハッとしたように大葉(たいよう)を見詰めてきた。 「あー、いや、その……それはきっかけに過ぎねぇからな!? べ、別に岳斗に言われたから一緒に暮らしたいって言ったわけじゃねぇし、俺自身ずっとそう出来たら嬉しいな? とは思ってたんだ。――それに……ほら、お前も! 道端でバッタリ杏子と出会ったりしたら……気まずいだろ?」  その視線の居心地の悪さに、さり気なく矛先を〝羽理が杏子と出会うこと〟にシフトチェンジしてみた大葉(たいよう)だったのだけれど。 「嫌です……」  ポツンと羽理がこぼして、自分の腕にそっと添えられているだけだった彼女の手指に力が込められた。 「羽理?」  嫌、とは……ひょっとして自分と住むことに対しての言葉だろうか?  だとしたら物凄いショックだ。  小さな身体をフルフルと震わせて、羽理が意気消沈の自分の顔をすぐ間近から見上げてくる。同居の提案を断られて泣きたいのはこっちなのに、何故か大葉(たいよう)が大好きなちょっぴり吊り気味のアーモンドアイをうるりと潤ませた羽理に、大葉(たいよう)は釘付けになった。
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