32.嫌だから、嫌なんです!

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「――私っ、……すぐにお引越ししますっ!」  ややして決意を込めたようつぶやかれた羽理(うり)の力強い言葉に、てっきり泣くほど同棲が嫌だったのかと動揺していた大葉(たいよう)は、一瞬『え?』と思って。ややしてその意味を理解するなりぱぁっと瞳を輝かせた。 「なぁ、羽理、それ、ホントかっ!? だったら善は急げだな!? いつにする? もちろん引っ越しは俺も手つ……」 「要りません!」  俺も手伝うから……と言おうとしたら、半ば被せるように羽理から思いっきり拒絶されて、大葉(たいよう)は「何でだ!?」と思わず不満を口に乗せたのだけれど。 「嫌だから、嫌なんです!」  絶対にこれだけは譲れないのだという強い意志の感じられる眼差しで「大葉(たいよう)金輪際(こんりんざい)うちのアパートには近付かないでください!」と付け加えられた大葉(たいよう)は、羽理から発せられる余りの剣幕に気圧(けお)されて、グッと言葉に詰まった。  そんな二人をキュウリがソワソワしたように交互に見上げてくる。その様がまるで自分を映す心の鏡のように思えた大葉(たいよう)は「おいで?」と、声を掛けたのだけれど。  キュウリより先に羽理が腕の中に飛び込んできて、そのことにも滅茶苦茶驚かされてしまった。 「えっ!? う、羽理!?」  羽理の細い二の腕が背中へキュゥッと回される感触を感じながら、大葉(たいよう)は『何が起こっているんだ!?』とオロオロと戸惑う。 「ねぇ大葉(たいよう)。どうして抱きしめ返して、……くれないの?」  だが、腕の中からそんな言葉とともにじっと見上げられて、不安そうな顔で眉根を寄せられた大葉(たいよう)は、腕の中の羽理を抱き寄せた。  そうして雰囲気に流されるまま、羽理の唇をふさごうとして――。  キュウン……というキュウリの切なげな声音にハッとした大葉(たいよう)は、羽理と瞳を見合わせて、二人して照れ臭さで真っ赤になった。 ***
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