32.嫌だから、嫌なんです!

11/12
前へ
/580ページ
次へ
(そういえば……)  屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)との電話を切った倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)は、愛車のルームミラーに何気なく引っかけている黒猫のキーホールダーを見上げた。  荒木(あらき)羽理(うり)が財布に招き猫のキーホールダーをつけているのをみて、猫グッズが好きな荒木さんらしいな? と思っていたら、先日羽理の家にケーキを持参したとき、帰り(ぎわ)道端(みちばた)露店(みせ)を広げているおばあさんから声を掛けられてものを売りつけられたのだ。 『これ、絶対貴方(あニャた)にぴったりのお守りだから』  そう言われて、何となくおばあさんの圧に押されて買ってしまったのだが――。 『百円ぽっきりとお安くしておくから、代わりに今度そこの神社に住みついてる猫に、(ニャに)か美味しいものをお(そな)えしてちょうだいね』  と乞われたことを思い出す。言われたときは『猫にお供え?』と眉根を寄せた岳斗だったが、そういえばアレからここへ足を運ぶことがなくてすっかり忘れていた。  もしかしたら今日杏子(あんず)ちゃんが餌付けしていたのがその猫かも知れない。しゃがみ込んでいた彼女の手に、猫用おやつの空きパッケージが握られていたことを思い出した岳斗は、今度〝お供え〟を口実に杏子(あんず)ちゃんを尋ねるのも悪くないな……とニヤリとした。  そうして猫繋がり。  目の前にぶら下がったキーホールダーに再度視線を戻した岳斗は、そこに書かれた文言を見て吐息を落とす。 (何で祈願……)  売りつけられた時、しっかり確認しなかった自分も悪いのだが、一人でふらついていた男にふさわしいお守りじゃないことだけは確かだ。
/580ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2211人が本棚に入れています
本棚に追加