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先程までは心強い味方だったはずのキュウリちゃんが、とても遠い存在に感じられた羽理は、縋るような目で彼女を見詰め続けたのだけれど。
大葉は愛娘に注がれる恋人の視線を断ち切るみたいに羽理を抱いたままスタスタと足早に寝室へ入ると、背後の扉を閉ざしてしまった。
「あ、あのっ、キュウリちゃんがひとりぼっちに……」
「ウリちゃんならケージの扉も開けてあるし、赤ちゃんじゃない。大丈夫だ」
キュウリちゃんが大葉不在の間、自分で好きなようにケージを出入りして、中へ設置されたベッドで眠ったり金網に引っかけられたお皿の水を飲んだりして過ごしているということは、羽理も知っている。お泊りに来た日の朝、キュウリちゃんがケージの中からノソノソと出てきてあくびをしながら伸びをしているのを見たこともある。
だから気にすることはないと大葉に言われてしまったらお手上げなのだ。
ふわりとベッドへ下ろされて、大葉に組み敷かれた格好。艶めいた眼差しで見下ろされた羽理の頭はヒャーヒャーと悲鳴をあげつつも現状を回避しようとフル回転。
懸命に目先を変えて、「あのっ、片付けがまだ……」と机上へ置き去りにしてきたグラスのことを示唆してみたのだけれど、「あとで洗えばいい」と一蹴されてしまった。
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※『とり服』に関するちょっとした裏話をエッセイ98頁に書きました。
もし興味がありましたら❤️
『気ままに創作語り』
https://estar.jp/novels/26236867/viewer?page=98
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