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大葉は自社の勤め先社長で伯父の土井恵介から、羽理とのことをすぐに公にはすべきでないと言われた時から、どうすれば社員たちのやっかみから羽理を守ってやれるのか、ずっと考えていた。
正直最大のライバルだと思っていた倍相岳斗が戦線離脱してくれたのは有難かったが、社内にはまだ五代懇乃介という伏兵がいる。
(あいつは手強いからな)
早いところ羽理の左手薬指に自分のものだという分かりやすい婚約指輪をつけて、その指輪を贈ったのは俺だから! と全世界に知らしめたい。
実際問題「俺の!」と主張することはすぐには叶わないにせよ、とりあえずはそうやって〝荒木羽理にはすでに相手がいます〟と周りを牽制した上で、他の問題をじっくり片付けたいのだ。
(そうしとかねぇと気が気じゃねぇからな、俺が!)
それにはまず――。
***
「なぁ羽理、お前の親御さんにちゃんと挨拶しに行きてぇんだけど」
フライパンにたっぷりのバターを溶かして塩コショウで下味をつけた卵液を流し込みながら、大葉は眠いのか、ホワホワとした様子でリビングにいる羽理へ声をかけた。
卵が熱で固まらないうち、六枚切り食パンを卵液に浸して素早く裏返しつつチラリと羽理を見遣ったら「挨拶……ですか?」と、こちらの真意が分かっているんだかいないんだか、判断のつかない表情をする。
「うちの親たちには会っただろ? 次はお前の親御さんだと思うんだ」
食パンの上に蕩けるスライスチーズを乗っけて、そこへケチャップを手早く塗り込むと少量の蜂蜜をタラリと回し掛ける。
バターの焼ける香ばしいかおりを漂わせるフライパン上で、ジューッといい音がしているのを見詰めながら、大葉は羽理の返答を待った。
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