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「うち、大葉のご実家ほど近くない……です、よ?」
羽理の話では新幹線の各駅停車で一時間くらいの距離だという。車なら高速を飛ばして二時間前後と言ったところか。
「結婚の挨拶しに行くのに距離は関係ないだろ」
フライ返しで食パンの周りに広がった卵を、パンを包み込むように折り畳みながら問い掛けたら、羽理が「いいんですか?」と小首を傾げる。
「いや、いいも何も……そこすっ飛ばしてお前を嫁に貰うわけにはいかねぇし……何より同棲の許しも取り付けたいんだよ、俺は」
焼けたものを二つ折りにして皿へ載せると、付け合わせにミニトマトとキュウリをトッピングする。
同じものを手早くもうひとつ作ってから、ナイフとフォーク、それから果汁一〇〇%のオレンジジュースを注いだグラスと一緒にトレイへ載せて羽理の元へ行けば、羽理が目をキラキラと輝かせた。
「お待ちどおさま」
「いつものことながら至れり尽くせりですね」
「俺と一緒に住めば毎日朝昼晩、美味いモン食わしてやるぞ」
もちろん、今日会社で羽理が食べられるよう、弁当だってしっかり作ってある。
羽理が自分と一緒にいることで感じる付加価値は、多ければ多いほどいい。
「きゃー、太っちゃいそうでちょっと怖いですっ」
言いながらもとても嬉しげ。「いただきます」と、いそいそと手を合わせる羽理に、大葉はホント作り甲斐があるな、と思いながら口の端に笑みを浮かべる。
「ま、その分毎晩ふたりで運動すれば問題ないだろ?」
クスクス笑いながら言ったら、羽理が手にしていたミニトマトをポロリと皿の上へ落とした。
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