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「せめて……週末限定でお願いしますっ」
真っ赤になってモニョモニョ言う羽理が可愛くて、もっといじめてやりたくなってしまう。それでわざとらしく「それだとカロリー消費が追い付きませんよ?」と追い打ちを掛けたら、羽理が泣きそうに情けない顔で大葉を見詰めてきて。その表情の余りの愛おしさに、大葉は心の底から幸せだ! と実感させられた。
「で、冗談はさておき、さっきの話なんだがな」
何だかんだで中途半端に頓挫してしまった羽理の実家訪問に話を戻せば、羽理がパンを切る手を止めて大葉を見詰めてきた。
「うち、元々父親不在の母子家庭なんですけど……その、問題ありませんか?」
自分が婚外子なことを気にしているんだろう。今更なことを言って不安そうに瞳を揺らせる羽理に、大葉はナイフとフォークを皿に置いて羽理を真正面から見据えた。
「俺としちゃあ、挨拶出来るお母様がご健在なだけで有難ぇんだけど?」
世の中には家族との縁に恵まれない人間なんてざらにいるのだ。
たまたま大葉には両親や姉達、それから祖父母らやお節介な伯父に至るまで皆健在で、尚且つやたらと密な関係を築いているけれど、そうじゃない人だっていて当然だと心得ている。
「羽理はおふくろさんとの仲……」
「悪くないと思います」
おじい様はもう鬼籍に入ってしまっているらしいのだが、それを機におばあ様と同居を始めた羽理の母親は、ペットOKな住まいに移り住めたのをいいことに、猫を飼い始めたのだとか。
「実家に帰るたび、毛皮の猫吸いしまくってます」
「毛皮の猫吸い?」
頓珍漢なワードに大葉が首を傾げたら、
「あ、『毛皮』は猫の名前なんですけどね……その子のお腹とかに顔を埋めてスンスンにおいを嗅ぐんです」
羽理が嬉しそうに説明をしてくれた。
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