34.次はお前の親御さんだと思うんだ

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 ちなみにそんな羽理(うり)一番のおススメは、肉球の香りらしい。 「何ていうんですかね。なんとも言えない香ばしいにおいがするんですよ♪」  その香りを思い出したのか、うっとりする羽理を横目に、大葉(たいよう)は切り分けたハニーケチャップチーズトーストを口に放り込む。  確かに言われてみれば、自分もウリちゃんの肉球の香りは嫌いじゃないなと思いつつ。(あの匂いは例えるならポップコーンかな?)とか考えていたら、「おかきとかお煎餅(せんべい)に近いにおいかも知れません」と、羽理が自分と同じように食べものに例えてくる。 (おかきや煎餅か。なら多分俺も嫌いじゃないな)  そこでふと、すぐ横に大人しくお座りしている愛犬キュウリに視線を移すと、愛らしく小首を(かし)げられた。 (ウリちゃんの肉球のかおりが一番でちゅからね!?)  愛娘のあざとい仕草に心臓を撃ち抜かれつつ、 「じゃあ近いうち、お前の実家へ猫吸いしに行くか」  と提案した大葉(たいよう)である。  その時は、ウリちゃんは柚子(ゆず)に預かってもらって……と頭の中で算段をしながら言ったら、羽理が嬉しそうに「わー、めっちゃ楽しみです! じゃあ私、お昼休みにでも早速お母さんに電話してみますね♪」と微笑んでくれた。 「んー♪ このチーズ入りトースト、蜂蜜がいい仕事してます! ほんのり甘辛い(あまじょっぱい)のがたまりません!」  そこで切り分けたトーストを頬張ってほわぁーと頬を緩める羽理を見て、 (多分コイツ、本来の目的が親御さんへの挨拶っての、忘れてるな)  そう思った大葉(たいよう)だったけれど、話が進まなくなるのもイヤなのでそこはまぁ、あえてスルーすることにした。 *** 「忘れ物はねぇか?」  羽理(うり)に実家への訪問を打診してもらってすぐの土曜日。  いつでもいらっしゃい、と言ってもらえたと羽理が報告してくれたので、早速即行で荒木家(あらきけ)を訪問することにした大葉(たいよう)だ。  羽理に実家へ訪問したい旨を打診したのが木曜の朝なので、実質そこからたった二日での強行軍である。
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