34.次はお前の親御さんだと思うんだ

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 愛犬キュウリは昨夜のうちにすぐ上の姉・柚子(ゆず)に預けてある。一応日帰りの予定にはしているが、ウリちゃんを待たせての外出ではない分、帰りが遅くなっても安心だ。  手土産も用意したし……と思いながら、羽理(うり)に『不備はないか?』と問い掛けた大葉(たいよう)だったのだが。  スーツをビシッと着て気合い入りまくりな大葉(たいよう)を見て、羽理が「もぉー、大葉(たいよう)ってばホント朝から落ち着きがないんだから。そんなに構えなくても大丈夫ですよー?」と、のほほんと微笑んでくれる。けれど、大葉(たいよう)としては『こういう時に構えなくていつ構えるんだ?』と問いたいくらいなのだ。  それを口にしようとした矢先――。 「ほら、今日は猫吸いしに行くだけですし」  当然のように続けられた言葉に、大葉(たいよう)は「ん!?」と聞き返さずにはいられない。 「羽理。お前、今なんて……」 「え? 猫吸いをしに……」 「いや、違うだろ!」 「え!?」    キョトンとする羽理に、「今日はお前との結婚の挨拶と……同棲の許しを請いに行くのがメインだぞ!?」と眉根を寄せたら、「きゃー、どうしましょう! 私、お母さんにそんな風に話してません!」とか。 「いや、じゃあ何て言ったんだ!」  ソワソワしながら聞けば、 「えっと……『お付き合いをしている男性(ひと)が〝毛皮〟のにおいを嗅ぎたいって言うので、連れて行ってもいい?』って聞きました」  羽理があっけらかんとそんな言葉を返してくるから、大葉(たいよう)は思わず「それだと俺、すっげぇ変な男じゃないか!」と言わずにはいられなかったのだが。 「えっ。でもお母さんもお婆ちゃんも『猫好きに悪い人はいない。是非来てもらいなさい』ってめっちゃ乗り気でしたよ?」  返された羽理の言葉に、大葉(たいよう)が(この親にしてこの子ありなのか?)と思ったのは、致し方ないだろう。 ***
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