2211人が本棚に入れています
本棚に追加
愛犬キュウリは昨夜のうちにすぐ上の姉・柚子に預けてある。一応日帰りの予定にはしているが、ウリちゃんを待たせての外出ではない分、帰りが遅くなっても安心だ。
手土産も用意したし……と思いながら、羽理に『不備はないか?』と問い掛けた大葉だったのだが。
スーツをビシッと着て気合い入りまくりな大葉を見て、羽理が「もぉー、大葉ってばホント朝から落ち着きがないんだから。そんなに構えなくても大丈夫ですよー?」と、のほほんと微笑んでくれる。けれど、大葉としては『こういう時に構えなくていつ構えるんだ?』と問いたいくらいなのだ。
それを口にしようとした矢先――。
「ほら、今日は猫吸いしに行くだけですし」
当然のように続けられた言葉に、大葉は「ん!?」と聞き返さずにはいられない。
「羽理。お前、今なんて……」
「え? 猫吸いをしに……」
「いや、違うだろ!」
「え!?」
キョトンとする羽理に、「今日はお前との結婚の挨拶と……同棲の許しを請いに行くのがメインだぞ!?」と眉根を寄せたら、「きゃー、どうしましょう! 私、お母さんにそんな風に話してません!」とか。
「いや、じゃあ何て言ったんだ!」
ソワソワしながら聞けば、
「えっと……『お付き合いをしている男性が〝毛皮〟のにおいを嗅ぎたいって言うので、連れて行ってもいい?』って聞きました」
羽理があっけらかんとそんな言葉を返してくるから、大葉は思わず「それだと俺、すっげぇ変な男じゃないか!」と言わずにはいられなかったのだが。
「えっ。でもお母さんもお婆ちゃんも『猫好きに悪い人はいない。是非来てもらいなさい』ってめっちゃ乗り気でしたよ?」
返された羽理の言葉に、大葉が(この親にしてこの子ありなのか?)と思ったのは、致し方ないだろう。
***
最初のコメントを投稿しよう!