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小ぢんまりした庭付き平屋の日本家屋前の空きスペースに、羽理の指示で車を停めて。
車窓に映る姿でネクタイを軽く締め直して気持ちを引き締めた大葉は、後部シートから手土産の『あんころポーネ最中』の袋を手に取った。
紙袋の持ち手を握る手に力がこもってしまうのは、今から羽理の親御さんへ結婚の申し入れなどをすると思えば仕方がないだろう。
何度も繰り返し深呼吸をしつつ、羽理とともに玄関前までたどり着いたのだけれど。
「たっだいまぁー♪」
羽理の方は勝手知ったる実家だからだろうか。大葉が「あ、おい! チャイム!」と声を掛ける間もなく、玄関扉をガラガラーッと引き開けてしまう。
(っていうか鍵!)
田舎あるあるなのかも知れないが、引き戸が施錠されていなかったことに(女性の二人暮らしじゃないのか?)と不安を覚えてしまった大葉だ。
だが、そんな大葉の心配などどこ吹く風。
娘の声に「はーい、お帰りなさぁーい」とこれまた緊張感のない声が家の中から返ってきて、パタパタとスリッパを鳴らしながらショートカットの中年女性がふわふわの真っ白な毛玉を抱いて玄関先まで走り出てきた。
おかげさまでというべきか。大葉は羽理に手を伸ばした間抜けな格好のまま、愛する彼女の母親と初めましてをする羽目になってしまう。
「あ……」
あまりの急展開に気持ちがついていかなくて、思わず言葉に詰まった大葉とは真反対。羽理の母親は嬉しそうに目を真ん丸にして大葉を見詰めてくる。そうしてすぐさま、「まぁ! もしかしてあなたがうーちゃんの!?」と、羽理によく似たアーモンドアイをパチクリさせながら身を乗り出してくるではないか。
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