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大葉は、毛皮にスリスリされながら(なんて神経の図太い猫なんだ! この家にしてこの猫ありか!?)などと思わずにはいられない。
「人懐っこくて可愛いでしょう、毛皮♥」
そんな大葉の横で、羽理が嬉しそうに腕の中の猫を撫でさするから。
「あ、ああ」
心とは裏腹。「……可愛いな」と心にもない返しをしてしまった大葉である。
(ウリちゃんより重いってどんだけおデ……ふくよかなんだよ、こいつ!)
心の中の声とは言え、〝デブ〟だなんて心無い言葉を投げ掛けるのは失礼だと思った大葉は、寸でのところで〝ふくよか〟と訂正したのだけれど。
「あらあら。りっちゃんの彼氏さぁーん。毛皮っ子はおデブで重たいでしょー?」
ノソノソと家の奥の方から出てきた、羽理の母親・乃子よりもさらに年配の女性――恐らくは羽理の祖母か?――にアッサリと打ち消した言葉を告げられてしまった。
「あ、いや、別に重くは……」
ゴロゴロと自分に懐く毛皮を見下ろして、(重いと思ってすまん)と同情の念を禁じ得ない気持ちになってしまったのは仕方あるまい。
(ところで今……この人、羽理のことを〝りっちゃん〟って呼ばなかったか?)
普通なら母親のように、先にくる「う」の方を取って呼ぶはずだ。聞き間違いだろうか? それとも?
などと思っている大葉のすぐ横で、羽理が祖母へ抗議の声を上げる。
「もぉ、おばあちゃん! デブとか言ったら毛皮が傷付いちゃう! こんなでもれっきとしたレディなんだから!」
(いや、羽理よ。お前の言いようも大概失礼だと思うぞ?)
毛皮本猫がどう思っているかは定かではないが、「こんなでも」は立派に侮辱の言葉だ。そんなことを思っている大葉を置き去りに、荒木家の女性陣はどんどん会話を進めていってしまう。
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