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初めての〝猫吸い〟のあと、荒木家の面々から期待に満ちた目で感想を求められた大葉は思ったままを率直に告げたのだが――。
「えー。それは大葉が鼻を付けた場所が悪いんですよぅ!」
羽理にぷんすかされて、腕の中の〝毛皮〟をスッと横取りされてしまう。
「あっ」
別に猫をモフモフするのが本来の目的ではなかったはずなのに、束の間とは言え腕に抱いた温かな重みを奪われたことに、大葉の口から図らずも抗議の声が漏れてしまった。
だが――。
「ほら!」
羽理の方を向いたと同時、湿っぽくて柔らかな肉球を鼻先へ押し当てられた大葉は、そのことに驚かされてしまう。
そうして、嗅ぐつもりはないのに吸い込んでしまったピンク色の肉球の香りは――。
「おい、こっちも全然変わんじゃねぇか!」
やっぱり唾くさかった。
それもそのはず。
毛皮の額から唾液臭がしたのは、その手をしっかり舐め舐めして顔洗いした結果なのだから。
「えー、嘘っ」
大葉の言葉に異議あり! という顔をして、抱き直した毛皮の肉球に鼻を寄せた羽理が「あ……、ホントだ」とつぶやいた。
「だろっ!? だから今はきっとこっちんが……」
言いながら大葉は羽理が抱いた毛皮のもっふもふタプタプのお腹に顔を埋めて。
「ほら、形用はし難いにおいだが、ここなら唾臭くない」
スンスンしてから羽理に告げた。
「形用し難いって……手抜きしないでちゃんと説明して下さいよぅ」
言うなり羽理は大葉と同じように毛皮のお腹に鼻を埋めて「んーっと、これは……〝お日様のにおい〟です!」と言い切る。
「太陽のにおいなんて嗅いだことねぇから分かんねぇわ!」
「何それ、自分の名前に引っかけたダジャレですか?」
途端ブハッと笑った羽理が、意地悪くそんなことを言うから。
「んなわけあるか!」
と答えた大葉だったのだが。
「あらぁ~、屋久蓑さんったらうーちゃんと対等に渡り合ってぇー。ホント面白い方ね♥ 私、そういう人、嫌いじゃないわ♪」
のほほんと間延びした声が聞こえてきて、大葉は今更のようにここが羽理の実家の玄関先で――あまつさえ羽理の実母と祖母の目の前だったことを思い出してハッとした。
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