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「あ、あのっ、すみません。これは――」
つい荒木一家の、何とも言えない風変りな空気感に呑まれてしまっていたことに慌てる。
動揺の余り、振り回した腕に掛けられたままだった『あんころポーネ最中』の紙袋が、右に左にぶらぶら揺れてガサガサと音を立てた。
「わしはてっきり今日屋久蓑さんが来たんは『お嬢さんを私に下さい!』かと思うちょったんじゃが、違うたんかの?」
その姿を見て羽理のおばあさまがしたり顔でククッと笑う。
「もぉ、おばあちゃん、屋久蓑さんにもタイミングっていうのがあるでしょう!」
そのタイミングを崩しまくったのは他ならぬ彼女たちなのだが、その辺はキッチリちゃっかり片隅に追いやって、乃子にまでクスクス笑われてしまった。
その展開に、大葉はグッと言葉に詰まったのだが。そんな大葉の横で、毛皮を抱いたままの羽理が
「あれっ? ひょっとして私、今日の訪問理由、猫吸い以外にもちゃんと伝えられてたりした!? わー、だとしたら朝大葉にお小言いわれて損しちゃったぁー」
彼女をモフモフしながら『羽理、お前の記憶力、大丈夫か!?』という発言をする。
「えっ!? うーちゃんはそんな出来た子じゃないでしょう?」
「わしも乃子から『うーちゃんの彼氏が猫吸いしに来る』としか聞かされちょらんわな」
二人に呆れた顔をされた羽理が「二人してまたそうやって私を出来ない子みたいに言うー」とぶつくさ言っているのを横目に、大葉はやっと心の整理が出来てきた。
(考えてみりゃ、当たり前だよな)
スーツ姿でネクタイまできっちり巻いて、手土産まで持参した――恐らくは結婚適齢期な娘(孫)の彼氏が、そこそこ遠方にある彼女の実家を訪問しているのだ。
自分たちよりはるかに経験値の高いであろう彼女たちが、その意味を理解していないわけがないではないか。
「あの……」
居住まいを正した大葉が恐る恐る口を開いたら、
「とりあえず玄関先で立ち話もなんじゃ。家ん中へ入りんちゃい」
おばあさんがスッと横へ避けて、上がるように促してくれた。
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※スタ特なので、少しだけエッチなシーンも入れてみました。
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