4.会社では別人

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*** 「荒木(あらき)さん、大丈夫だった? 何か屋久蓑(やくみの)部長と白熱した議論を交わしていたようだけど……」  げっそりした様子で部長室を出てきたと同時、部長室外で待ち構えていた倍相(ばいしょう)課長から心底心配そうに顔を覗き込まれて、羽理(うり)は後ろめたさに居た堪れない気持ちになる。 「だっ、大丈夫です。ご心配お掛けして申し訳ありません」 (すみません。課長とのあんなことやこんなことの妄想を、危うく屋久蓑(やくみの)部長に暴かれそうになりましたっ。でもお互いの尊厳は死守したのでご安心ください!)  頭の中でそんなことを思いつつ、しゅんとして謝罪の言葉を述べたら、何故か羽理に続いて部長室を出てきた屋久蓑(やくみの)部長に、「荒木、お前俺に対する態度と倍相(ばいしょう)課長に対する態度が違い過ぎないか?」と不満を言われてしまう。 「やっ、ややこしくなるので屋久蓑(やくみの)部長は出てこないで下さい!」  思わず部長室にいた時のテンションのまま。  総務部長様を、「ハウス!」と指図せんばかりの勢いでキッ!と睨み付けたら、フロア全体が「おぉぉぉ」とどよめいた。 「俺にそんな口が利けるの、お前と社長ぐらいだわ」  ククッと笑って屋久蓑(やくみの)部長は羽理の頭へ一瞬だけポンッと手を載せると、部長室へ引っ込んで。  羽理は、一体何しに出て来たんですか!と思わずにはいられない。  だが、羽理の周りはそんな二人のやり取りに驚かされるばかりで。  目の前でその様を見せつけられた倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)などは、目を白黒させて羽理を見ていたのだが、羽理はその視線にも気付かないまま、ぺこりと頭を下げると、すたすたと自席へと戻ってしまう。  だが、当然と言うべきか。  戻るなり仁子に「ちょっと羽理っ。あんた、いつの間に屋久蓑(やくみの)部長とあんな仲良くなったの!」と肩を揺すられて。 「仲良く!? バカなこと言わないでっ。あの人は私をいじめて楽しんでるだけだよ」  はぁーっと溜め息をついて屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)の出張費の清算や仕分け作業を開始した。  いつもより厳しい目でチェックしたのは言うまでもないのだが、さすが鬼の屋久蓑(やくみの)部長と言うべきか。  何一つ不正計上らしきものは混ざっていなかった。
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