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玄関先は扉を背にしたいわゆる逆光だったから気付けなかったのだが、ダイニングと一続きになった和室へ通されてみると、広縁から燦燦と陽光が降り注いでいるからだろう。
大葉の黒色のスーツには、毛皮の白い毛が沢山付いているのがイヤになるほどガッツリ見えた。
「スーツで白猫は鬼門だったね!」
羽理に「ありゃりゃ」と言われながらそのことを指摘された大葉は、自身を見下ろして(さすがにこれは……)と思った。
猫アレルギーの人間なら、遠目に見ただけで目がかゆくなりそうだ。
「毛皮っ子の毛ぇ取るんはコロコロが一番じゃ」
おばあさんから粘着ローラーを差し出された大葉は、「有難うございます」とそれを受け取って、自分で服に付着した毛を取ろうとしたのだが。
「私がやってあげる!」
横から羽理の手が伸びてきて、手渡されたばかりのコロコロを奪われてしまう。
「まぁうーちゃんってばすっかり素敵な奥さんねぇ♥」
途端乃子がニヤニヤしながらそんな娘を冷やかして、羽理が「ま、まだ奥さんじゃないもんっ!」と耳を赤く染めながらぷぅっと頬を膨らませる。
今日は、そんな羽理との結婚の許しをもらいに来たくせに、大葉は目の前で繰り広げられる母娘のやり取りにやたらキュンとしてしまった。
(やべぇ、俺の嫁(仮)、可愛い過ぎか!)
何より羽理が自分のためにせっせとコロコロを掛けてくれている様は、乃子の言葉ではないが新妻を髣髴とさせられて、思わずギュゥッと抱きしめたくなるくらい愛しい。
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