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結局何だかんだとグダグダながらも、乃子たちが用意してくれていた茶請け菓子『月から落ちてきた卵』とお茶を前に、大葉はやっと本題へ入れそうな流れになった。
「月たま、子供の頃から大好きなんですっ」
羽理がニコニコしながら手にしたまぁるい洋菓子は、ふわふわのカステラ生地の中にたっぷりのカスタードクリームと刻み和栗が入った地元の銘菓らしい。
「屋久蓑さんもどうぞ」
乃子に言われて、とりあえずは無難に茶へと手を伸ばした大葉だ。ひとくち口を湿らせる程度に含んだお茶は、この日のために用意してくれたんだろうか? 仄かに甘みを感じる美味しい緑茶だった。
「月たま、大葉も食べて? 美味しいよ?」
「甘いもんがお嫌いじゃなけりゃ、どうぞ」
羽理と初にダブルで菓子を勧められて、素直に手に取り包みを解くと、薄クリーム色のしっとりとしたまぁるいフワフワ生地が現れた。
見た目の割にずっしりと重いそれを軽く食むと、すぐさまカスタードに到達する。
(うまいな)
思わずその後パクパクッとふたくちでぺろりと月たまを平らげてしまった大葉は「ね? 美味しいでしょう?」という羽理の弾んだ声にハッとした。
(いかん、つい……)
グッとテーブル下、皆からは死角になった位置で拳を握りしめて気持ちを切り替えると、大葉は座っていた座布団からスッと降りて畳の上へ直に正座し直した。
「大葉……?」
そんな大葉の様子に羽理が二つ目の月たまを手に小首を傾げる。
大葉はそんな羽理をちらりと見詰めると一度深く息を吐き出してから、テーブルを挟んだ向かい側に座る乃子と初に真摯なまなざしを向けた。
「――本日はお忙しい中、お時間を頂き有難うございます」
それは、本来ならば玄関を入ってすぐ。名乗りと同時に告げるはずだった言葉だ。色々ありすぎてグダグダになってしまったが、大葉はそのセリフを場の空気を仕切り直すのに使った。
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【蛇足】
エッセイに、月たまのモデルにしたお菓子のことなどを書いています。
https://estar.jp/novels/26236867/viewer?page=123
もし宜しければ٩(ˊᗜˋ*)و
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